心理臨床カウンセリングセンター主催フォーラム「COVID-19の社会的インパクトおよび遠隔心理支援の課題と期待」を3月6日にオンライン(Zoom)で開催しました。
■発表者
中川 裕美(心理学部 講師)
竹田 剛(心理学部 講師)
岡村 心平(心理学部 講師)
越川 陽介(心理学部心理学科 非常勤講師)
司会:三和 千德(心理学部 教授・心理臨床カウンセリングセンター長)
挨拶:石﨑 淳一(心理学研究科長・心理学部 教授)
本学心理学部の中川裕美講師には「コロナ禍における心理-社会的インパクト」について、岡村心平講師には「遠隔支援の変遷:ニーズと昨日の変化からの再考」について、竹田剛講師には「遠隔心理支援で対面面接は再現できるのか?」について、越川陽介非常勤講師には「コロナ禍におけるオンライン・カウンセリングの現状」について発表いただきました。
沿革心理支援についての歴史や遠隔心理支援場面の構造の視点からのお話や、医療・産業分野における遠隔心理支援についてのお話があり、2時間半の開催時間では足りないような、幅広く、濃い内容となりました。
コロナ禍の状況で遠隔心理支援が注目を集めていることもあり、フォーラムには学生や実際に現場で働いている方に、多数、ご参加いただきました。
参加者からは、「歴史的背景やカウンセリング実施時に留意している点などについても知ることが出来てよかった」「さまざまな場面で遠隔による支援が必要になる可能性がありますので、柔軟に構造を考えていくためのヒントをたくさんいただきました」などの感想が寄せられました。
<フォーラムでいただいた質問への回答>
Q1:COVID-19による今後の公認心理師カリキュラムへの影響(例えば遠隔支援を想定した授業の実施など)はありますでしょうか。
A:エピデミックや遠隔心理支援については、直接的に公認心理師の授業科目のレベルの議論にはならないと思いますが、国家試験の出題基準に出てくる可能性は大いにあり(災害支援その他)、そうなると当然授業でも扱うことになりますね。
(心理学研究科長 石﨑 淳一)
Q2:場所の問題についてのお話がありましたが、遠隔で常に同じ状況下で行うということはやはり難しいのではないかと思いました。しかしその状況が異なることで、クライエントの様子の変化を手掛かりとすることも出来るのではないかと思いました。これは遠隔ならではの利点ともいえると感じましたが、先生方はどのように考えられているか聞かせていただきたいです。
【A:登壇者の先生方からの回答】
興味深いご質問ありがとうございます。遠隔カウンセリングにおける場所の話題は、クライエントが安心して話ができる環境をカウンセラーが一緒に整えていく必要があるという意図でお話させて頂きました。
心理面接で取り扱っている問題にもよりますが、確かに、状況が異なることへのクライエントの反応は面接室外の対人関係の様子やクライエントの語りと客観的な様子との差異などを知る手がかりになるようにも思います。
クライエントにとって、そして心理面接に枠組みの変更がどう作用しているかを慎重に見極めながらも、遠隔下のカウンセリングでも活用していくことのできる側面があることに注目していく姿勢は大切に思いました。
(講師 中川 裕美)
非常に重要なご指摘だと思います。従来の対面での心理支援を実施する際には、面接場面の諸条件(治療構造)をなるべく「安定」させることによって、クライエントにとってご自身の問題に取り組みやすい状況を提供するねらいがあったと言えます。これによってクライエントの変化(外見などの微細な変化から、カウンセラーとの関係性、アクティングアウトに至るまで)がより際立ちやすくなるわけです。
遠隔心理支援での面接場面の変化が、面接過程に何らかの変化がもたらされた際には、その環境のどのような側面が影響したのか、カウンセラーもクライエントも共に、精緻に振り返り、検討しておくことは重要だと考えられます。自宅から面接を受けるとしても、他の家族の在宅の有無や、その面接の前後の予定など時間的な諸条件も考慮したいところです。
一方で、これまで対面での面接に付随していた諸条件が、実は心理支援において一定の役割を果たしていたのではないか、ということも翻って指摘できるとも思われます。相談機関への行き帰りの時間、あるいは物理的に家庭や職場などの日常の人間関係から「距離を取ること」の意義などは、逆に遠隔心理支援が心理支援という営み全体に何らかの示唆を照らし返しているとも思います。
(講師 岡村 心平)
ご質問ありがとうございます。遠隔心理支援の実施場所が一定になりにくいことについて、どのように考えられるのかという質問に関しまして以下のように考えました。
まず、場所(環境)が一定になりにくいという理由がどのような点に起因するかが大切ではないかと思います。例えば、クライエントの認識として、自分の大切なことを話す時に場所についてあまり気にしていない、自分と周囲との境界が曖昧になりがちな方の場合でしたら事前に自分の大切な話は他の人に聞かれないように環境を整える必要があるという点について共有する必要があるのではないかと思います。
一方で、他の家族との関係などから場所は同じであっても状況が異なる場合などもあると思います。その際に生じるクライエントの環境に対する感じ方などを取り上げることもカウンセリングの中で取り扱うテーマになりうるのかなと思いました。
また、少しご質問の意図とはずれるかもしれませんが、遠隔心理ならではの利点として、やり取りする環境をあえて変えることもあると思います。例えば手洗いに対する恐怖を持っている方に対して暴露療法などを行う際に、実際にご自宅の洗面所で行ってもらいリアルタイムにその心境の変化を共有したり、提案をしたりということは可能になると思います。その点では環境、場所、を変えることによるメリットは大きいのではないかと思います。
(非常勤講師 越川 陽介)
ご質問ありがとうございます。先生方にお答えいただいた内容に加えるところはございませんので,少しアセスメント以外の観点からコメントさせていただきます。
こういった状況の変化を扱うことは,クライアントの行動に応答することになりますので,クライアントのテレプレゼンスやラポールが高まるのではと思います。また私が実践している摂食障害臨床で考えますと,状況を安定させたいけれど安定させられないもどかしさがクライアントから語られることがあります。それに共感的・受容的に接することで,翻ってクライアント自身の存在を支える機会にもできるかと思います。こういったことを自然な状況で・積極的に行えることは,遠隔支援の利点ともいえるかもしれません。
ただしこれらはあくまで扱える範囲内での変化についてです。こういった構造が安定しない状態は,クライアントの症状の重篤さや身体-心理-社会的な不安定さと関連があるかもしれません。構造の変化をクライアント理解の一助とするに加えて,変化が大きいようであればリスクのアセスメントとして構造の見直しにつなげることも大切かもしれません。
(講師 竹田 剛)
Q3:もし可能であれば、竹田先生のスライドデータを拝見させていただければ有難いです。 難しければ、文献リスト等あれば拝見させていただければ、後学のために大変助かります。
A:私の講演内容にご関心を持っていただきありがとうございます。下記のリンク先に,引用文献を追加したスライドをアップロードいたしました。ご高覧いただけましたら幸甚に存じます。
https://www.slideshare.net/secret/zQ1ZMQILoEewHk
(講師 竹田 剛)