神戸学院大学心理学部広報誌 CoCo-Navi 創刊号
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日本心理学諸学会連合の理事長としての要職にあった当時、公認心理師制度設立に向けて尽力された子安増生先生をお迎えしたこの日、奇しくも前日に新たな制度のもとで初の公認心理師合格発表があり、公認心理師の誕生が現実のものとなりました。そこで先生には、公認心理師の前途、制度展開の今後をこれまでの経緯を含めてお話しいただきました。最近、さまざまな職業がAI(人工知能)にとって代わられる可能性が取り沙汰されています。専門技術的な書類作成に関わるような仕事である行政書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、司法書士といった「士業」がAIに代替されるとする指摘もあります。一方で、対人的な要素の色濃い「師業」である公認心理師がAIに取って代わられる話はないものの、仕事の内容の精査はしていく必要があります。ただし、「師業」でも養成の仕方を間違うと、歯科医師や弁護士のように、多すぎて開業が大変な現実があります。資格を持つ人と、その人が就く仕事との関係はきちんと考える必要があります。さまざまな分野への職域拡大という将来性心理職の職域拡大という、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働等のさまざまな分野での将来性の問題もあります。チーム医療に関わる職種は医師から臨床心理士までたくさんあります。これまで、臨床心理士が国家資格でなかったので、カルテの閲覧権がないなどの問題がありました。これからは違います。また、チーム医療の教育分野版としては、「チーム学校」があります。学校は先生の聖域でしたが、先生自身の理解が進んだのと、学校現場の状況に対応するため、心理・福祉の専門スタッフを学校に配置していくことが言われています。これからチーム学校の一員として公認心理師をどう位置づけていくかの問題も大事です。福祉分野では、社会福祉士と介護福祉士との連携が問われています。それぞれ資格を得るまでのプロセスや内容が違い、それぞれの役割がありますが、それに公認心理師がどのように関わっていくか、どういうふうに協力し合っていくかということが、この分野のテーマになっていくと思います。産業・労働分野では働き方改革や、あるいは残業時間が多く自死に至るケースがいろいろ問題になりましたが、働くことによって不幸になるということは本末転倒です。公認心理師の存在意義は大きく、産業医との連携も求められます。朗報なのは、50人以上の事業所には義務づけられているストレスチェックテストが、研修を条件に公認心理師も担当できることが決まったことです。公認心理師法「第43条(資質向上の責任)」は、研修、研鑚を積み、新しい知識、新しい考え方というのをいつも得るようにしておかなければならないという規定です。大事なことは、医学では「エビデンスベースト(evidence-based)」と言い、自分のしている行為が本当に科学的な手続きを経て検証されたものであるかを知っておくべきだということです。その意味では、精神疾患の治療の歴史という過去もきちんと把握しながら、現在の問題を理解することが大事だと考えます。Faculty of Psychology心理学部講 師/甲南大学文学部特任教授・京都大学名誉教授 子安 増生先生ning Memorial Academic Lecture国家資格として心理学に求められるもの公認心理師として大事なのは、信頼と信用です。信頼は、知識と技能を誠実かつ効果的に用いて、乱用したり悪用したりしないこと。それが、支援を受ける側から信頼される条件です。信用は、公認心理師にみてもらえば、心の問題が治まっていくこと、何かプラスが得られるということへの期待感です。その実現のためには心の問題とその対処法について、歴史上のことも理解し、最新の知識も身につけなくてはなりません。そのことを通じて公認心理師というポジションが明確になり、その国家資格としての意味も高まっていくのです。開設記念学術講演会

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