心理学部学術講演会「信頼の心理学」が開催されました

心理学部
2019.04.10

2019年1月9日(水)、同志社大学心理学部教授である中谷内一也先生をお迎えし、「信頼の心理学」についてお話しいただきました。講演内容については心理学部紀要「神戸学院大学心理学研究」第1巻第2号に掲載されています。

https://www.psy.kobegakuin.ac.jp/~kgjpsy/

講演会後、長谷ゼミ2年次生の田野伶弥さんと亀高龍人さんが中谷内先生にインタビューを行いました。中谷内先生は学生の素朴な疑問に丁寧にお答えくださり、熱心な質疑応答が続きました。以下、学生がまとめたインタビュー内容です。

 

田野さん: 地震や災害に対するリスクを過小視することにつながる正常性バイアス等の人の判断の歪みを是正し、正しいリスク判断を行わせることは今のリスク心理学の知見を参考にすれば可能なのでしょうか?

中谷内先生: たとえばidentifiable victim effect(特定化された被害者効果; 犠牲者の数といった統計情報よりも、飢餓で苦しむ1人の子供の写真を見せたほうがより多くの援助行動が生じる現象)というものがあり、「まさにこの人がひどい目に遭った」というのを提示した方が単なる抽象的な情報を提示するよりも、危機感や恐怖感は高まるだろうと思います。ただ、それが倫理的に人道的に可能なのかどうかはちょっと難しいところですね。

 

田野さん: 本日の講演で相手に行動の動機づけを行う時に説得するための意図を見せてしまったら、効果がないというお話がありました。それでは、意図をもった上で災害の準備を促すのは逆効果なのでしょうか。また、もしそうである場合、人に防災意識を持ってもらうにはどうすればよいのでしょうか?

中谷内先生: 説得意図が見える人に説得されないとうのは、説得する本人が「自分の利益のために」や「自分の立場に引っ張り込む」ことが目的で説得しようという意図が見えてしまうと、もう誰も説得されないということなのです。ですから、説得する側が「自分はそれ言うことによって損をするかもしれないし、面倒を被るかもしれないけど、相手の命を守るために説得しているんだ」ということが分かってもらえると、説得が有効になるかもしれないですね。

続いて、災害への準備を促すという点について、リスク心理学ではリスク認知パラドクスという言葉があります。これは 「リスクが高いと思うこと(認知)」と、「そのリスクに対処すること(行動)」は別問題であるという現象です。このように、認知と行動の2つの相関は実は極めて低かったり、さらには、ぜんぜん無かったりするんです。だから、意識、すなわち、認知だけ高めてもだめで、別の方向から行動を促すことが大事だと言えます。たとえば、災害に備える行動の1つとして前もって保険に入るかどうかの意思決定がありますが、その意思決定ではリスク認知よりも、「近所の人が保険に入っているかどうか」が重要になります。このため、災害への備えを促すには個人を説得していくよりも地域全体で説得した方が効果的かもしれないといったアイデアが出てくると思います。

 

亀高さん: 中谷内先生が研究の際、アイデアを創造するために心がけていることはありますか?

中谷内先生: 研究はオリジナリティが大事なので、他の研究者がまだ行っていない研究をするのが非常に重要です。僕は無理矢理にでも自分を肯定するようにしています。アイデアが生まれてそれがこれまで他の人が研究しているか調べるのはとても大変です。調べた結果、似ている研究が見つかることはあるのですが、その研究と自分の研究が全く一致していることはないので、その違いを明記します

 

亀高さん: 研究は最大何人ほどで行うのですか?

中谷内先生: 心理学では一般的に10人を超えることはあまりないです。文章は小説のように作者が一人で書くものなので、論文を書くことや文章を作るという作業は、本来は力を合わせにくい作業だと僕は思っています。ですから私に関しては、共同研究の時はメインとなる人を決めたり、研究をリードする人を決めています。

 

亀高さん: 心理学の中で一番好きな研究は何ですか?

中谷内先生: 好きな研究は色々ありますが若い頃にこれすごいなと思った研究はスタンバーグ記憶課題です。この課題は確か60年代に行われたものです。60年代ですので、今よりも機械のレベルが低く、測定できる従属変数は反応時間ぐらいなんです。しかし、この記憶課題では単なる反応時間から脳の中でどういった処理が行われているかを推測するために、コロンブスの卵的な巧妙な実験方法が用いられました。このように、単純な指標から複雑な仮説を支持する、もしくは支持しないといったようなことが検証できる、そういう研究が僕は印象に残っています。