神戸学院大学大学院心理学研究科 博士後期課程での学びとは? (2)

特集
2023.03.29

大谷多加志先生との座談会レポート その②

2022年12月に、大谷多加志先生(京都光華女子大学健康科学部心理学科准教授)をお招きし、座談会を開催しました。大谷先生の博士後期課程在籍当時の指導教員である本学心理学部の清水寛之教授と、小久保香江心理学研究科長、実習助手の黒川優美子さん、心理学研究科生の福井優哉さん・心理学部生の菅野真愛さんも参加しました。

今回は「その②」として、座談会に参加された学生と大谷先生のディスカッションについてまとめました!

※「その①」はこちら

 


 

子どもとのかかわり どうしたら上手になれる?

菅野真愛さん(以下 菅野):私は今、心理学部の公認心理師の養成にかかる実習科目で、子育てサロン での実習に参加しています。子育てサロンでは子どもを対象に班ごとにプログラムを行うのですが、私が所属している班でプログラムを上手く進められないことがありました。子どもとのかかわりで難しいことがあって。いろいろな担当の先生方からフォローをたくさんいただきました。
いろいろな現場で公認心理師として活動したいと思うと、やはり子どもとのかかわりももっと上手になりたいと思います。何か心掛けておられるコツなどはありますか。

 

大谷多加志先生(以下 大谷):菅野さんは、子どもとかかわる上でどのあたりが苦手ですか。たとえば泣かれたらどうしようみたいなことがあるのか、あるいは言葉でコミュニケーション取れないから、かかわりかたに困るとか?

菅野:子どもって、こけたらすぐ泣くし、ちょっと目を離したらそのときに何か起こらないかと怖く感じてしまいます。もし足にぶつかったら大丈夫かな、みたいな・・。

小久保香江心理学研究科長(以下 小久保):優しい(笑)。急に子猫を任されたような気分になる。

清水寛之教授(以下 清水):大学生が一番赤ちゃんに遠い、一番慣れていない時期ですよね。そのうちに、甥ごさんとか姪ごさんとか、場合によっては自分のお子さん生まれたりしてピンと来るようになるかもしれないけれど・・。

大谷:みんな最初はそうだと思うんですよね。子どもって本当に小さいので、どう触っていいかの加減も分からない感じがあると思います。私も実際、0歳の赤ちゃんに初めてしっかり触れたのって、自分の子どもが最初でした。自分の子どもが生まれたときに、ほんとに生まれたての赤ちゃんを、毎日触る経験をしました。

私は発達検査の研究をずっとやってきました。なので、自分の子どもが生まれた時に赤ちゃん用の検査も実際にやってみたのですが、0歳0カ月の赤ちゃんに実施する検査項目の中に、赤ちゃんの両手を持って引っ張って体を起こす、というものがあります。0か月の赤ちゃんは首が座っていないので、頭が後ろに倒れたまま引き起こすことになります。私も最初はこんなことをして大丈夫かと心配でしたが、手順通りゆっくり引き起こしたら、もちろんそれで首がどうこうなったりもしないですし、本人も平気で「うー」「あー」と言ってるので、こちらも「平気なんだ」と実感できました。そんな風に、直接触っていくうちにだんだん「あ、これは大丈夫なんだ」とか「ここだけ気つけたらいいんだ」といった加減が分かってくることがありました。なので最初怖いと思うのは当然だなと思いますし、最初から大胆にかかわりすぎると危ないことがあるかもしれないので、今くらいのかかわりかたから始めるので十分だと思います。
あと泣いちゃったときに罪悪感を覚えるとか、泣かれるのは苦手だという方も多くいらっしゃいます。「泣かせちゃった」という感覚を覚えると「もうかかわらないほうがいいかも」「私がかかわったら駄目なのかな」といった感じを持たれたりもするんですけど・・まあ、子どもは機嫌が悪ければ泣きますし、眠くても泣きますし、お腹がへっていても泣くので。そういうときは「今日は泣きたい気分なのかな」というふうにまずは捉えてみるのも大切かと思います。
他にも赤ちゃんや子どもは、本人の気持ちの準備が整ってないときにかかわって来られるとびっくりしてしまって泣く、といったことがあったりします。だから、びっくりさせちゃうのが心配なのであれば、少し最初は距離を引いて見ながら、子どもが目線を送ってくれたときに反応するとか、子どもからアクションがあったときにリアクションを返すといった感じでやっていくと、だんだんと距離を近づけていけるかなと思います。

そんな感じで、かかわれるなっていう感覚が持てると、苦手さがそのうちにちょっとずつ、小さくなっていったりすると思います。まとめると、今少し苦手だなとか、何かしちゃったらどうしようかな、加減が分からなくて怖いなと思うのはすごく自然なことなので。それを持ったままで、ちょっと恐る恐るでもかかわっていってもらうことが、結果的に怖さを減らすことにつながってくんじゃないかなと思います。かかわってみたら、すごくおもしろいですよ。
でも、菅野さんご自身のやりたい方向性とか、得意不得意とかに合わせて、どこまで経験を積んでいくかを選んでもらっていいんじゃないかなと思います。菅野さんが言葉でやり取りしながらカウンセリングを進めることに関心があったとして、その進め方は発達の観点から子ども対象には難しい場合があるので。

清水:トレーニングの過程では、本学も赤ちゃんからお年寄りまで実習をやるけれども、ここでみんな実践しないといけないわけじゃないしね。子どもがかかわる臨床でも、子どもをとりまく人間関係へのアプローチなど、実際はさまざまなバリエーションがありますよ。

 

実習を受けることの意義とは?

福井優哉さん(以下 福井):修士課程を過ごす中で、個人的に一番大事だと思っているのが実習なんです。実習への参加を通して、自分が大きく成長できているなと実感しています。
先生は学部も含め、神戸学院大学のカリキュラムに長く参加されています。実習の中で先生の中で大きく響いたところや、実習へ参加してよかったといったポイントはおありでしょうか?

小久保:研究科長として、非常にうれしい質問です。本学は実習が売りです。(笑)

大谷:ありがとうございます。私は京都光華女子大学の大学院実習にもかかわっています。学生さんにとって実習はとても緊張感のあるものだと思いますが、その中で経験することは代えがたいものだと思っています。実習が良い経験になったと言っておられるのは、私も教員として嬉しく思います。
ただ、私が修士課程(神戸学院大学大学院人間文化学研究科)に進学した頃は、まだカリキュラムとして実習が今ほどには整備されていませんでした。そのころは先輩方もみんながそうだったんですけど、ボランティアやアルバイトなどで、とにかく現場に出ようということを心がけていました。卒業していく先輩がしていたボランティアなどを後輩が引き継いでいくような形でした。
私も児童相談所や児童養護施設でボランティアをさせていただいたり、児童自立支援施設でアルバイトをしたりしていました。これらの施設で体験できたことは、すごく大きかったと私も思います。例えば先にお話した子どもとのかかわりかたは、実習を通して考えを深められたところも大きいと思います。

清水:今は、実習カリキュラムは大きく変わりましたよ。

大谷:もう学部のカリキュラムから全然違う印象ですね。「心理学」と名前がつく科目の数とかも、圧倒的に違いますよね。だから学部のパンフレットを拝見しただけで、うらやましく感じます。

 

進学に関して 経済的な問題をどう調整したか?

清水:今、修士課程におられる方でちょっと不安に思っておられるのは、博士課程の3年間での授業料など経済的な問題について。やっぱり気になりますよね。

大谷:それなりの額を出すことになりますので、私も家族での話し合いを持ちました。「ちゃんと卒業すること」「3年で絶対博士号を取ってほしい」という条件を妻からは出されました。当時の家計の収支と、今後3年間の見通しを全部書き出して、プレゼンテーションをして、何とか了解いただいたと思います。(笑)/p>

黒川優美子さん(以下 黒川):私の場合は家族の支えがあったのと、自分でもアルバイトをしていました。心理学では実験の参加に謝金をお渡しする場合がありますが、この謝金は特にアルバイト代から捻出していました。それにいろいろな奨学金の制度もあります。
あと私の場合はご縁もあり、博士課程5年目に本学の実習助手で採用いただきました。なので、博士課程は満期退学という形にして、そこから3年以内であれば博士論文を出せる論文博士制度を利用して、実習助手として1年働きながら博士論文を書きました。仮に3年で修了できそうにない見通しになったら、頑張ってお仕事をしながら書き上げるということもできるかと思います。

清水:今後は、既に公認心理師の国家資格を持った方が、例えばスクールカウンセラーをしながら、本学の博士課程に来られるというのは十分あり得ると思います。大谷君のように、良い具合に自分の研究と臨床活動がかみ合うようにできると、実践から距離を置いて博士課程という「ものを考える時期」を持てるようになる。このことはすごく大事だと思います。
これからは、国家資格を取った後に、自分なりにどうステップアップしていくかを考えることが大切だと思います。福井くんも公認心理師の資格試験に通ったとして、就職してから、もちろん上司や先輩に教えてもらうこともあるけれども、在学時に本学でかかわりをもった先生方に改めて相談をしてみることもできる。そういうご縁がゆっくり作れる時間は大事だと思います。

大谷:人生は長いので、資格を取ってから何十年も仕事をしていくことを考えたときに、今振り返ってみると博士課程は大切な転機になったと思っているんです。小さな組織でずっと働いていると、どんどん深い臨床知が得られますけど、狭くなっていく部分もあると思うので、その中でもしかすると自分としても行き詰っていたようなところはあったかもしれない。あのタイミングで博士課程進学を思い切れてよかったと改めて思います。

 


 

・・まだまだ話題は尽きませんが、ひとまずここで区切りとしたいと思います。

 

続きの「その③」はこちら